That's all

 彼女の記憶はそこで止まっていた。

 しかし、大きな有名財閥が二つも絡んだその出来事は世間で割と大きく報道されていたため、私はその事件の全貌を既に知っていた。話はこのようなものだった。

 

 その街で一番と言っていいほど大きな財閥には、家長、妻、長女、また多くの使用人たちがいた。そして、家長の部下として働く長女の叔父もいた。その叔父は、「自分は日頃から激務に励んでいるのに、上司である兄夫婦は長女に好きなようにさせ、のんびり優雅に過ごしている。そもそも今は亡き父親が、能天気な兄ではなく自分に家督を継がせていればこんなことには。」そう長年思い、兄夫婦、また姪である彼らの娘に憎悪の感情を抱いていた。ついに痺れを切らした叔父は、ちょうどよく現れた、姪の婚約者財閥に目を付ける。隣町の財閥である婚約者の父親は、自分の息子のあまりの出来の良さに嫉妬を覚え、自分の地位に不安さえ抱いていた。そのような噂を仕事柄耳にしていた叔父は、婚約者の父親を唆し使用人を使わせて、姪とその婚約者を殺害させた。叔父自身は兄夫婦を射殺したらしい。

 

 私が彼女に、ある何かの感情を抱いたのは、愛する人を失った彼女にいつの間にか自分を重ねていたからだろうか。

 ともかく私は彼女を側に置くことにした。